経営コラム

心に響くメッセージは、むしろ落語に近い

 

先日「これはすごい!」と心から感動する講演を聞いたんです!

僕は仕事がら、日々たくさんの講演を聞く機会に恵まれているのですが、
その講演は頭ひとつ飛び抜けていました。

今回は、そんな感動の講演を聞く中で発見した
「心に響くメッセージの条件」を考えてみます。

心に響くメッセージは、むしろ落語に近い

神保町の駅から通りに出ると、
そこは古書と喫茶店、そして学生の街。

抜けるような青空の下、歩く道には古書店がずらり。

本を愛するおじさまと、元気の良い学生が
入り混じって行き来する。

何度来ても不思議で、そして大好きな街です。

駅から大通り沿いに歩くこと5分。
講演会の会場には、迷うこと無く辿り着きました。

大きめの会場は、800名ほど収容できるでしょうか。

普段はコンサートなどで使われるようで、
音がよく響くように壁にデコボコがつくられています。

さて、僕が心から感動した講演会。
その講師とはいったい、誰だったのでしょうか。

年間400以上の講演をこなす、その人は…

幕が上がり、壇上にあらわれたのは、
エネルギーに満ち溢れていながら、ひょろりとした方。

ずっと、お話を聞きたい!と思っていた
福島正伸さんです。

本で読んでいたイメージと違って、
とってもテンションが高い!(笑)

登場からすぐに会場は温かい笑いに包まれます。

そしてその後は、まさに福島さんの独壇場。
面白いように観客の心を動かしていきます。

楽しく笑い、感動して泣き、そして深い学びがある。
こんなにいろいろな要素が詰まった講演は初めてでした。

「何で、こんなに感動したんだろう…?」

後から分析してみると、そこには3つの要素がありました。

心に響くメッセージ:3つの条件

全体を通して感じたのは
「メッセージを心に届ける方法は“講演”と言うよりも、
むしろ“落語”に近いんだなぁ」ということです。

落語家は「噺(はなし)」で生計を立てている、
いわば「喋りのプロ」です。

ひとたび噺家(はなしか)が話しだすと、
観客はその世界の中に引きずり込まれる。

そして、その世界の中で起こる出来事を
“疑似体験”し、笑い、泣き、そして学ぶのです。

福島さんの講演を聞き終えた感想は
「講演を聞き終えた」というよりはむしろ
「面白い落語をひとつ聞き終えた」という感じでした。

「メッセージの伝え方」と「落語」
両者にはいったい、どんな共通点があるのでしょうか。

【1】扉は叩かず、開けてもらう

「冒頭から、いきなり本論に入っていく!」

そんな話し方をしていませんか?
それは、おすすめ出来ない方法です。

落語でも冒頭では「枕」と呼ばれる小話が話されます。

それは本論に繋がっていく、
あるいは物語の世界観に引き込むための“雑談”です。

福島さんの講演でも、最初の20分ほどは
エンターテインメントに尽くしていました。

話し始めた直後は、相手の心が“閉じて”います。
その扉は、無理やり開けようとしても、開きません。

また、閉じている状態の相手に対して
メッセージをぶつけても、心のなかには入っていかないのです。

だから、最初は「こっちの世界は楽しいぞー」と誘って、
心の扉を開けてもらうことを目指します。

相手がリラックスし、心を開いてからが、
本論の始まりなのです。

【2】エブリバディ イズ ノーバディ

人前で話すとき、「皆さん」という言葉を使っていませんか?

福島さんは、僕が記憶する限り
一度も「皆さん」と言いませんでした。

「エブリバディ イズ ノーバディ」という言葉があるように、
「みんな」と呼びかけては、誰の心にも言葉が届きません。

800人の観客が居れば、
「800人という“みんな“」に向かって話すのではなく、
「1人×800という“個人”」に向かって話す。

だからこそ、メッセージが心に届くのだと思います。
これはwebの世界でも同じことが言えるでしょう。

また、圧巻だったのが講演の内容です。

福島さんは分厚い資料を講演台の上に置いていました。
講演に際して事前に内容を考え、準備していたことは明らかです。

でも、伝え方やエピソードは、
明らかに“アドリブで”話されていました。

会場の人々、または空気の流れに合わせて、
内容を調整しているのでしょう。

イメージとしては、

「新鮮な食材の用意と下準備は完璧に済ませておく。
  味付けは、訪れた人に合わせて調整する」

という感じだと思います。

ここまでは出来ないにしても、
「顧客目線を持つ」ということを
忘れないようにしたいものですね。

【3】“論理性”は必要だけど、“論理的”では伝わらない

論理的な伝え方は「心を動かす」には向かないと言われています。
大切なのは「どれだけ相手の頭の中にイメージさせるか」。

福島さんがエピソードを話すとき、
僕の頭の中にはその情景がありありと浮かんでいました。

そして、福島さんが体験したことを、物語の中で”疑似体験”するのです。
「理解する」のではなく「体験する」というのが重要なのだと思います。

人は内側から来る「体験」に対しては盾を向けることが出来ません。
抗うこともできず、メッセージを受け取ることになるのです。

また、講演全体の中で“メッセージが占める割合”も重要だと感じました。

メッセージを伝えている時間は
全体の1割程度だったのではないでしょうか。

それ以外は、相手を世界に引き込み、鎧を外すための時間です。

エンターテインメントを尽くし、相手が「ふっと緩んだ」ところで、
相手の頭の中に“内側から”メッセージを伝える。

だから、心に残るのだと思います。

実際、「もっと多くの時間を“メッセージを伝える”ために割いている」
講演会と同じくらい、僕はたくさんのものを受け取りました。

そういった講演では、僕はおそらく、
メッセージを受け取りきれていないのだと思います。

これは、営業の機会でも同じことが言えそうですね。

まとめ

福島さんの講演を聞いて「相手にメッセージを伝える」ためには、
徹底的に相手の立場に立って考えることが重要だと、改めて実感しました。

【1】扉は叩かず、開けてもらう
【2】エブリバディ イズ ノーバディ
【3】“論理性”は必要だけど、“論理的”では伝わらない

人の前で話すとき、営業で相手にメッセージを伝えたいときには、
ぜひこの3つのポイントを思い出してみてください。

 

※この記事は、「Entre Magazine」のバックナンバーから抜粋しています。Entere Magazineの登録はこちらからどうぞ。

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