社員がバラバラの方向を向いている、優秀な人材が入ってこない、定着しない・・・そんな悩みを抱えている経営者は多い。しかし、その悩みは「経営理念」を使って解決できるかもしれない。
経営理念は、あなたの会社が何を大切にしているのか分かるだけでなく、多様な価値観を持つ社員を一つにまとめる上でも重要だ。経営には必要不可欠な要素と言っていいだろう。
経営理念は多くの会社で掲げられている。しかし一方で、経営理念を社内コミュニケーションの活性化や売上げアップに明確に繋げることができている経営者は、そこまで多くないのが現実だ。
そこで今回は、「あなたの会社を成長させる 経営理念の作り方」と題し、アドラー心理学の第一人者であり、コンサルタントとして2000人以上の経営者に経営理念の浸透や人材育成についてアドバイスしてきた経験を持つ小倉広さんにお話を伺った。
お話を伺った方
人物紹介:小倉広 氏
株式会社小倉広事務所代表取締役
一般社団法人 人間塾代表理事
一般社団法人 日本コンセンサスビルディング協会代表理事大学卒業後、株式会社リクルート入社。事業企画室、編集部、組織人事コンサルティング室課長など主に企画畑で11年半を過ごす。その後ソースネクスト株式会社(現・東京証券取引所市場第一部4344)常務取締役、コンサルティング会社代表取締役などを経て現職。コンサルタントとして、2oo社以上の中小企業の理念浸透や組織開発に携わる。
近年は、アドラー心理学と企業組織の双方を熟知した数少ない専門家として、講演、企業研修を数多く行っている。
著書に、『33歳からのルール』(明日香出版社)、『任せる技術』(日本経済新聞出版社)、『アルフレッド・アドラー 人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)などベストセラー多数。
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1.優秀な人材ほど理念を重視する
– 多くの企業が経営理念の策定に取り組んでいますが、そもそもなぜ経営理念が重要なのでしょうか?
小倉広(以下、小倉)- 生まれも育ちも考え方も異なる人間が集まる上で、共通の目的がないと、組織として成り立たないためです。その共通目的が「経営理念」にあたります。
最近では、優秀な人材ほど理念を重視していますから、優秀な人材確保という意味でも経営理念は重要です。
-「さとり世代」と言われていますが、確かに最近の優秀な若者は、給与や知名度よりもやりがいを求めているように感じます。
小倉- 昨今、若者たちが就職するときに重視するのは、「自分が働いたらどれだけ社会の役に立てるのか」といった、生きる意味や会社の存在意義です。
昔は給与やポジションで優秀な人を採用できましたが、現在のようにモノの価値がなくなってきた時代においては、社会貢献や生きる意味など、人間の根本的なことへの答えが価値を持っています。
その「存在意義」を言葉にしたのが経営理念です。若い優秀な人ほど、理念を求める傾向が強いと感じています。
– 採用後も、経営理念は重要なのでしょうか?
小倉- 経営理念には、優秀な人材を組織に引き止める効果もあります。
多くの中小企業では、優秀な人材の離職を防止するために給与を上げようとします。しかし、優秀な人材が重視するのは給与などの物質的報酬ではなく、尊敬できる人の存在や「自分の仕事が社会の役にたっている」という実感などの精神的報酬です。経営理念は、その精神的報酬にあたります。
精神的報酬を与えて社員のモチベーションを上げる仕組みを作れれば、お金をかけずに優秀な人材を確保・キープすることができます。
2.会社の変化に応じて経営理念をバージョンアップせよ
-経営理念を策定する際に、小倉さんが重視しているポイントを教えてください。
小倉- ポイントは2つあります。一つは、会社の変化に応じて経営理念は変えてもいいということ。二つ目は、経営理念をバージョンアップするために、自分たちで経営理念を作るということです。
– 経営理念というと、抽象度の高いものにして、ずっと変えないというイメージですが。
小倉- 抽象度が高いからこそ、実際に運用しないと分からないことが多いですから、経営理念の策定に力を割くよりも、運用することに力を割く必要があります。実際に運用してみて、やりにくいことがあれば変えていくべきです。
また、この変化の激しい時代、5年~10年あれば会社は変わっていきます。例えば、支店を増やしたり、海外の会社を買収することもあるかもしれません。会社が変わったのに、過去の理念にこだわり続ける必要はありません。会社の変化に応じて経営理念もバージョンアップするべきです。
– 変化に応じて経営理念を変えるためには、自分たちで経営理念を作らなければならないのですね。
小倉- 外部コンサルタントに全てを任せると、かっこいい理念ができますが、自分たちで理念をバージョンアップできなくなってしまいます。コンサルタントの手を借りるのは良いことですが、側面的に支援してくれるコンサルタントの力を借りるべきです。
私も、コンサルタントとして理念策定に携わるときは議論のファシリテーションのみを行い、コンテンツには触れないようにしていました。
– 理念を作るべきタイミングというのもあるのでしょうか?
小倉- 会社の拡大期など、社員がばらばらになりやすい時期と、経営者の代替わりの時期に経営理念を作るべきです。
会社の拠点が増えると、経営者の目が届かない場所で人材が育つようになります。本社と支社とのカラーが異なったり、これまでの経営理念が薄まってしまう可能性があります。ですから、会社の拡大期で拠点を増やすときには、会社をもう一度束ねるために、経営理念の策定を行うべきです。
また、経営者が代替わりする時も、一代目社長と二代目社長の間や、二代目社長と社員たちの価値観をすり合わせる必要があります。新しい経営理念を作ることで、新しい経営者が会社をまとめることができます。
経営理念は創業時に作ってはいけない、というのがポイントです。
3.理念の作成=理念の浸透
– それでは、社内でどのように経営理念を作ればいいのでしょうか。経営理念を作るステップがあれば教えてください。
小倉- 社内での葛藤や迷う場面を社員に挙げてもらい、その葛藤に対する答えを考えると理念が見えてきます。
例えば、「顧客第一主義と言うが、どこまでやればいいのか」や「顧客満足が高ければ売上が上がらなくていいのか」など、現場からのリアルな葛藤を集め、正解を考えます。その際に、その正解に至った理由を考えることが重要です。迷う場面では、必ず深い理由で決断しています。その決断理由が経営理念になっていきます。迷う場面をたくさん挙げて、その決定基準を作ることが重要です。
現在抱えている葛藤だけではなく、過去に経営者が経験した葛藤や、目指したい未来像、会社内部での葛藤や、お客様など外部との葛藤など、「過去」「現在」「未来」「内部」「外部」という枠組みで、それぞれ迷う場面を挙げて、決定基準を作っていくと、会社の価値観と理念が見えてきます。
– 理念というと、経営者がトップダウンで決めるイメージを持つ方も多いと思いますが、幹部や社員らと議論しながら決めるべきなのですね。
小倉- 理念策定においていちばん重要なのは、理念を媒介にして社内のコミュニケーションを活性化することです。上で述べたようなミーティングを20回も30回も繰り返していくと、プロジェクトのメンバーはかなり深いレベルで話し合うことができます。
経営理念を作るために、会社の過去や現在、未来について経営者と社員が一丸となって話し合うことが、理念策定の目的です。
プロジェクトが進んでいく中で、経営者と社員の関係性や会社の雰囲気が良くなった事例はよく見られます。
-ミーティングを繰り返すことで、経営理念を社内に浸透させることもできそうです。
小倉- その通りです。私が大切にしているのは、「経営理念を作ることと浸透させることは同じ」ということです。深いレベルで話し合わなければ経営理念は生まれないので、経営理念を作る過程は浸透させる過程と同じです。
また、各部署から選出した社内に影響力のあるエバンジェリストのような社員たちと共に理念を作ることで、作成後も理念を社内に浸透させることができます。 社員と膝を突き合わせて考えた理念は、自然に社内に浸透していくのです。
4.経営理念を実行した社員はヒーローにしよう
-経営理念の策定会議に全社員が参加できるわけではありません。経営理念を全社員に浸透させるためにやるべきことはなんでしょうか?
小倉- 経営理念ベースの行動にまつわるエピソードを社内で共有することが重要です。
理念のような抽象的な言葉は何通りにも解釈できてしまいますし、感動は生まれません。具体的なエピソードを共有することで社員の心を打ち、モチベーションを高めることができます。
例えば、福岡を中心に展開している美容室のBAGZYでは、お客様の自転車にカバーをかけて雨でサドルが濡れないようにしたり、お客様の誕生日を覚えていてサプライズパーティーを演出するなど、従業員がユニークなサービスを行い、高いリピート率をキープしています。
この会社では、日頃から自分が行ったエピソードを社内で共有しているため、社員が競い合うように良いサービスを行っています。 このように、理念ベースのエピソードを社内で共有することで、理念は社内に浸透していき、理念を軸にコミュニケーションが活性化されます。
経営理念の唱和などを行っている会社も多いかと思いますが、唱和だけだと意味はありません。理念は、エピソードとセットになって初めて意味をなすものだと思います。
– エピソードをどのように社内で共有すればいいのでしょうか?
小倉- 定期的にエピソードの審査大会を行い、一番良いものを表彰することです。できればそのエピソードを本にしたり、DVDにしたりして、全社員に広められると良いと思います。
売上よりも理念のほうが大切なら、売上トップの社員よりも理念をトップで実行した人のほうが出世して当たり前ですから、表彰された人をその会社のヒーローにしてあげる仕組みを作ることが重要です。
-エピソードを共有することで、業績が上がることもあるのでしょうか?
小倉- 社員が理念を積極的に実践すると、会社のブランド力向上や業績向上に繋がります。
例えば、素晴らしい接客を他の社員が真似すれば、顧客も喜びますし、業績も上がります。 理念は売上の極軸軸に置かれることが多いですが、理念があれば売上も上がるはずです。そもそも利益がないと理念も実現できないので、利益が手段で理念が目的であるべきです。
そのため経営者は、理念を業績アップにつなげて語る必要があります。理念と業績が両方うまく行った事例を共有するようにしましょう。
– 最後に、社内コミュニケーションに悩みを抱える経営者の方にメッセージをお願いします。
小倉- 経営理念の本質は、理念を通じて社内のコミュニケーションを活性化させることです。社員がバラバラの方向を向いている場合は、経営理念を作り直したり、経営理念を実現したエピソードを社内で共有する時間を設けることで、一体感のある組織を作ることができます。
経営者は、経営理念を上手く使って、社内のコミュニケーションをかき回し、業績を伸ばしていきましょう。
小倉さん、ありがとうございました!
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