「女性活用」や「ダイバーシティ」の重要性が叫ばれて久しい。本年度4月に施行された女性活躍推進法の追い風を受けて、大企業を中心に、女性社員の活躍を積極的に推進する会社が増えてきたこともあり、働く日本女性の数は増え続けている。厚生労働省によると、2015年度の女性の就業率は48.2%。正規の女性従業員は1053万人と、昨年から25万人も増加している。「優秀な人材に男も女もない」、そんな時代がやってきている。
しかし「結婚・出産ですぐに辞めてしまうのでは?」「女性特有のモチベーションを上げるポイントがあるなら知りたい」など、女性社員の採用や、採用後の活かし方に悩む中小・ベンチャー企業の経営者も多いと思う。そこで今回は、『女子社員マネジメントの教科書―スタッフ・部下のやる気と自立を促す45の処方箋』著者である田島弓子氏に、「女子社員を会社の戦力として採用、育成するポイント」を伺った。
お話を伺った方
人物紹介:田島弓子
ブラマンテ株式会社 代表取締役
IT業界専門の展示会主催会社にてマーケティングマネジャーを勤めた後、1999年マイクロソフト日本法人に転職。Windowsの営業、マーケティングに従事し、数少ない女性の営業部長を勤める。在籍中プレジデントアワード2回受賞。2007年、ブラマンテ株式会社を設立。自身のサラリーマン経験を活かした3つの分野に特化し、社員研修、セミナー、執筆活動を行っている。著書に『女子社員マネジメントの教科書』『プレイングマネジャーの教科書』(ダイヤモンド社)、『ワークライフ“アンバランス”の仕事力』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などベストセラー多数。
1 男女に能力差はない時代!? 優秀ならば女子社員も積極的に採用しよう
–中小・ベンチャー企業には様々な人材がいますが、なぜ女性社員の採用を推進するべきなのでしょうか?
田島氏(以下、田島)- マクロな視点からお答えすると、少子高齢化が進む日本では、働き手が減少することが予想されているからです。
男性だけで事足りていた企業でも、労働力が不足していき、これまで働き手とみなされていなかった「女性」や「外国人」「シニア層」を採用する必要に迫られることは間違いありません。女性社員に限らず「働き手の確保」という問題はどの企業でも起こることなので、今から優秀な女性社員を採用する土台を準備しておくにこしたことはありません。
–よりミクロな視点ではいかがでしょうか
田島- ミクロな視点でお答えしますと、企業が古い価値観に縛られて「男性の方が良い」と男性中心に採用しようとすると、優秀な人材を逃してしまうからです。
現在、大卒の男女比率は大体50:50です。私が大学生の時は、経済学部の女子学生は2割ほどしかいませんでしたが、企業の中でその考えをまだ引きずっているのであれば、それは時代錯誤です。現在は半分が女子生徒で、男性と同じ教育機会を得ている訳ですから、「男性を採用したい」という考えでは、優秀な人材を逃すことにつながります。
仕事の能力に男女差はありません。企業は過去の価値観を改め、人材をフラットな目で見ないと、優秀な人材を逃して自分たちが損をする、そんな時代なのではないでしょうか。
–「男女で能力差はない」とおっしゃっていましたが、採用時には優秀だった女子社員が、入社後伸び悩んでしまうのはなぜでしょうか?
田島– やる気もポテンシャルもある女性が長く働けるための風土や業務慣習が、会社の中で整っていないからだと思います。頑張って働いてきた女性も、結婚はするし子供も生まれます。そんな中、育児と仕事を両立しながら働く女性にとって不平等な風習や慣習があったり、機会が平等でないと、女性はやる気を失い、働き続けることが難しくなってしまいます。
これからの会社は女性が長く活躍できるようにするために、採用後の女性社員を放置するのではなく、会社側がどういうサポートをするのかをセットで考えなければなりません。そのためには、今までとは違ったものも受け入れ、会社を必要に応じて改革していくことも必要になると思います。
2 長時間労働を見直すと、生産性も女子のやる気もアップする
– 中小企業で働く多くの女性社員が、入社後3年以内に辞めてしまっています。女性が長く働けるためのポイントとは?
田島– 長時間労働など、育児と仕事を両立している女性にとって弊害となる慣習を見直すことが重要です。
現在、女性の活躍推進について企業が取り組まなければならないと言われていることは、産休制度や育休制度など制度を整えるだけでは足りないということです。
いくら制度を整えても、日本の企業に残っている企業風土や慣習、そこで働いてきた人に育まれた意識を見た時に、がんばりたい女性にとって不平等になっていることを変えなければ、女性が長く活躍することは難しくなります。
長時間労働の文化は、その典型的な例です。「私は子育てをしているけれど、限られた時間で結果を出すことができる」という生産性の高い時短社員にとって、長時間労働の常態化はキャリアアップの足枷です。
企業は、長時間労働を是正するだけではなく、「長時間労働している人は偉い」という人々の意識も変えなければいけません。「不夜城」であることを自慢するような価値観が残る職場では、優秀で生産性の高い人材は評価されにくくなり、育児と両立しながら時短で働く女性にとってはどうしても不利になってしまいます。多様な人材が同じ職場で働く時代が来ることを見据えて、企業は、長時間労働に対する人々の意識を変えなければならないですし、人事の評価も労働時間ではなく能力で測るような仕組みに変えていくことが求められています。
3 女子の能力を伸ばすために「アンコンシャス・バイアス」に気をつけよう
–労働時間ではなく能力で人を評価する、というのが女性活用のポイントなのですね。
田島– マネジメントや人事評価に関して、もう一つ大切なのが、「アンコンシャス・バイアス」という概念です。これは外資系企業から導入され始めた心構えで、自分と違う考え方や価値観を持った人材に対し、無意識のうちにバイアスをかけて人を見ないようにしよう、ということを意味します。様々な価値観を持つ、多様な人材が同じ職場で働いている今、人を評価する立場にある上司や経営者にとって重要な視点だと言われています。「自分と違うイコール間違っている」ではないということです。
例えば欧米では、LGBT(性的マイノリティ)や、人種の違いなど、多様な人材が一緒に働いている中で、「自分は白人だから黒人より優れている」や「自分はストレートだから、ゲイの人と仕事はしたくない」と思うのはバイアスがかかっていますし、このような価値観を抱えたままでは仕事の能力を公正に評価できていません。
同様に女性に対しても評価にバイアスをかけない意識が重要です。「女性は感情的だからだめだ」とか、「彼女は時短勤務だから戦力外だ」と考えてしまうようでは、優秀な人材を戦力として活用できなくなってしまいます。
したがってこれからは多様な人材を、アンコンシャス・バイアスをかけないようにして、正しく評価できるような意識やスキルを上司や経営者が持てるようになることが重要です。
–能力で人を評価する仕組み以外に、女性を戦力化するために有効な仕組みがあれば教えて下さい。
田島– 入社当時から男女平等に仕事を与え、結婚や出産までに一通りのスキルと経験を身につけさせることを企業が仕組み化できるようになると、女性が戦力として長く働けるようになると思います。
現在、日本人女性が第一子を産む平均年齢は約30歳といわれています。それまでにある程度のスキルや経験を積ませてあげることにより、出産や育児でブランクが生じたとしても会社に戻ってきやすくなりますし、戻ってきた時も立ち上がりが早いはずです。また男女差別なく平等に育成することによって、仕事へのやりがいや愛社精神が育まれていますので、会社としても戻ってきて欲しい人材になり、お互いがウィンウィンになるのではないでしょうか。
4 女性活用のカギは経営者が握っている
–会社全体が、女性の戦力化に向けて変革するために、経営者は具体的にどんな施策を打てばいいのでしょうか?
田島– 現在女性活躍推進に向けて大きく動いている企業の特徴のひとつに、トップがコミットしているということが挙げられると思います。
女性活躍推進に関し、意欲的な取り組みを続けてこられた日本生命さんでは、女性が育休取得率100%であることはもちろん、男性も同じくらい育休を取得することを目指しています。
そういった、女性活躍推進に関して進んでいる会社は、トップダウンで改革を進めることで効果をあげているケースが多いです。したがって、中小やベンチャー企業であればあるほど、経営者が旗を降れば大きく変革できる可能性があるのではないでしょうか。まずは経営者が女性活躍推進にコミットすることが大切だと思います。
– それでも、男性中心の風土に染まった中間管理職の方々の意識を変えていくのは、なかなか大変そうです。
田島– これまで男性中心で育まれた会社の風土を変革するのは時間がかかる取り組みだと思いますが不可能ではありません。
例えば男性管理職が育休を取得することによって、女性の大変さを理解できますし、在宅勤務を体験することによって「在宅=サボる」というバイアスの意識も払拭されます。実際に体験することで意識も変わり、その大変さをどう組織のマネジメントで改善していくかというアイデアも生まれやすくなります。そういった取り組みも行われるようになってきています。
5 田島氏が考える「遅れている会社・進んでいる会社」とは?
– 田島さんが考える、女性活躍推進に関して遅れているなと思う会社はどのような会社ですか?
田島– 社長のタイプによりますが、ワンマンタイプの経営者が経営しているベンチャー企業の中に、女性活用に関して遅れている会社が多いのではないかという印象です。
ベンチャーであればあるほど、社長の性格や会社に対する思いが経営や企業風土にダイレクトに反映されるので、社員にも合う・合わないが出てくるのはないかと思います。したがって、社長の性格や仕事の進め方やコミュニケーションの取り方が合わないと、共感力が高く、チームワークで仕事を進めたいと感じる傾向の強い女性にとっては、辛い職場環境であるといえるのではないでしょうか。
– 逆に、女性活用に関して進んでいるなと思う会社はどのような会社ですか?
田島– ワーキングマザーや妊娠中の女性も含めて、男女関係なく全員でチームワークをはかり仕事をしようという風土が定着している企業です。実際に、あるベンチャー企業さんでは、マタニティマークを鞄に付けて通勤している女子社員さんが、職場では他の社員に立ち混じって活躍し続けていたり、「早く仕事をしたい」からと、育休を取らずに産後3ヶ月で会社戻ってきた女子社員さんがイキイキと打ち合わせをしていました(笑)。いろんな人間が同じ職場で働いているんだという意識を持ち、仕事という共通言語でお互いをリスペクトできる関係がつくれている職場は、女性が戦力として活躍できるのだと感じました。
風土が整っているから、女性たちも頑張れるし、頑張っている女性がいるから、彼女たちをもっと支援しようとする制度や仕組みが生まれます。ベンチャー企業なので女性の活躍を応援しようという社長の意識やアイディアをそのまま職場に反映することができます。ベンチャー企業ならではの良いスパイラルができているなと感じます。
–中小・ベンチャー企業では特に女性が定着していない会社が多いように感じます。
田島– 中小=ハードワークというところがあると思いますから、体力的に辛くなったり、先々考えた時に仕事と家庭の両立を考えて辞めてしまう、という根本的な問題があると思います。ワークライフバランスを大切にしたい女性でも、生産性が高く、与えられた仕事にきちんと結果を出せる社員なのであれば、戦力として扱う仕組みを整えてあげることによって、会社としてもメリットとなる人材になるはずです。そのためにもお互いコミュニケーションを取りながら、会社の期待を伝えたうえで、どこまでできるか、というのをすり合わせることが一番大事だと思います。
一方で女性たちも、会社がやってくれるのを待っているだけではなくて、もっと仕事で頑張るためにどんなサポートが必要かということを、自分からどんどん発信し、上司を巻き込み自分のキャリアのサポーターにしてほしいと思います。
ただ、最近は女性だけでなく若い男性もワークライフバランスを気にしていると言われています。若い世代は仕事に対する価値観が変わってきている、というのは、男性管理職の方のぼやきを聞いていると垣間見えますね。
–著書で述べられている女性マネジメントの方法は、女性だけでなく、若い男性社員へも十分に適用できそうですね。
田島– そうですね。「自分と異なる人をどうマネジメントするか」というのが多様化時代における人材育成の課題になりますので、女性社員だけでなく、年代が異なる人や、草食系男子たちのマネジメントにもお役に立てると思います。
田島さん、ありがとうございました!
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