考えが煮詰まってしまったとき、 僕は決まって「本屋さん」に行きます。
その日も、頭を悩ませながら、本屋さんをフラフラ。
見るとはなしに棚を眺めていると ふと僕の目に、ある本の表紙が飛び込んで来ました。
真っ白な表紙に、力強い筆文字でたった一文字 「禅」と書かれた雑誌。
特に「禅」に興味があったわけではないのですが、 何となく、買ってしまいました。
家に帰り、パラリと開いた1ページ目。 目に留まった写真が、僕の意識を数年前へと運び去っていきました。
浮かんできたのは、僕が学生の頃に見た景色。 たしかそれは、友人と2人、 あてのない旅をしていたときのことだったと思います。
「一流の仕事人」になるための、たった1つの方法
まだ僕が学生だったときのこと。 友人と2人、「青春18切符」を握り占めて あてのない旅に出ました。
あとは出会う人や、そのときの興味に導かれるまま、 気の向くままに進む旅です。
何日目のことだったか、 僕たちは京都で寺院を巡っていました。 そして「南禅寺」というお寺と出会ったのです。
何もない、だけど、すべてがある
立派な門をくぐり、自然に溢れた、広大な境内を進んでいくと、 一番奥まった場所に、銀閣寺のような、書院造りの建物があらわれます。
入口で靴を脱ぎ、中に入る。 そこは“凛”として張り詰めた雰囲気が漂っています。
入口から、脇の長い廊下へ。古い木の感触を確かめながら進んでいくと、 庭に面した「縁側」にたどり着きます。
このとき僕は、眼下に広がった「庭」に目を奪われてしまいました。 初めて出会ったその庭は「枯山水」というもの。
植物や水を配置せず、砂と石だけでつくられています。
一見すると「何もない、寂しい庭」という感じ。
しかし縁側に座り、しげしげと庭を眺めて、僕は驚いてしまいました。
そこには「全てがあった」のです。
シンプルなものには、人を「能動的」にする力がある
何もない、砂と石だけの庭。
そこにあるのは、限りなく「無」に近いものです。
僕たちは普段、情報が溢れ、 あらゆるものに「干渉され続ける」世界に生きています。
そんな僕たちが「無」というものに 出会ったとき、何が起きるか。
心の中で眠っていた「能動的な思考」が動き出すのです。
外からの刺激に反応して、何かを考えるのではなく、 自分の内面から沸き上がってくるものに、考えを巡らせる。
それは、仕事での「責任」や「判断」とは一線を画した、 自己の内面との対峙。
普段、あまり覗くことのない自己の内面とは不思議なもので、 あらゆるものがそこに「最初から在る」のです。
「何もないけど、全てが在る」 これが僕が枯山水を初めて見たときの感想です。
人間は誰しも最初から、全ての答えを知っている。 ただ、それに気づかないだけなのかもしれません。
「シンプル」を極めたものは、 人の「能動的な思考」を引き出します。 外から押し付けるのではなく、内側から働きかけるのです。
「あぁ、こんな人になりたいな。」
「こんな“もの”をつくりたいな。」
僕は、心からそう思いました。 そのためにはいったい、何が必要なのでしょうか。
たった1つのこと。 それが鍵だと、僕は考えています。
「足す」ことをやめて、「引いて」いく
枯山水の庭園は「禅」の思想を体現したものです。 禅では常に「簡素」を大事にし、 余分なものは「これ以上取り除くことができない」 というところまで削ぎ落としていきます。 植物や水、築山など、通常の庭をつくる際に使うものを、 とことんまで「引き算」していく。 そして、最後に残るのが、 砂と石だけでつくられた枯山水という庭園なのです。 私たちは普段、生活の面においても、思考の面においても 常に「足し算」を続けているように思います。 「もっと知識をつけなければ!」 「もっと価値を上乗せできないか」 「もっと他の機能をつけられないか」 「もっと良いものが欲しい」 「もっとお金が欲しい」 … でも、もしかしたら「価値」をつくる鍵は 「引き算」にあるのかもしれません。 「足すこと」をやめて、まずは自分の中に「在るもの」を自覚する。 そして、それを大事に磨いていくこと。 大きな価値をつくる人は、 そこを徹底しているように思います。 実際に、徹底した「引き算」によって 圧倒的な価値をつくりだしている人を、 僕は先日、目にしました。 「目にした」と言ってもスクリーンの中なのですが。。 「小野二郎」という人を知っていますか?
シンプルを極めるとピュアになる
銀座の地に「すきやばし次郎」という鮨屋があります。 その店の主人が、小野 二郎 氏。 御年88歳の職人が握る鮨は、 今でも世界中の食通の舌をうならせ続けています。 かの有名な「ミシュラン」でも「三ツ星」を5年連続で獲得。 まさに「鮨の最高峰」といえる名店です。 ちなみに、ミシュランが三ツ星を与える基準はこちら。 「それを味わう為だけに、旅行する価値がある」 どれだけ高い評価なのかがわかります。 そんな「すきやばし次郎」は客席:カウンターわずか10席。 お酒も、つまみも出さず、メニューは「おまかせ握り」のみ。 徹底した「引き算」を実践しています。 お客さんの平均滞在時間は20分程度。 それでいて価格は3万円~。 一見すると、法外な値段に見えますが、 それでも、文句を言うお客さんは1人も居ないのだそう。 その鮨の味は、どんなものなのでしょうか。 食通に言わせると、二郎さんが握る鮨は 「シンプルを極める」のだそう。 シンプルでいながら、なぜか味に奥行きがある。 その味が、世界中の美食家たちを魅了してやまないのです。 そんな二郎さんの仕事感がわかる、こんな言葉があります。
一流の仕事人になるために、必要なこと
「一度自分で仕事を決めたら、どっぷりとその仕事に浸からなきゃいけませんね。 仕事に惚れなきゃだめですよ。仕事の不平不満なんて言ってる暇はないんです。 技を磨くことに人生を賭けなきゃ。 仕事で成功したり、立派だと言われるようになる秘訣は、 こういうことなんじゃないかな」
職人の仕事というのは、とてもシンプル。 毎日の大部分がルーティンの作業なので、 すぐに「壁」にぶつかるのだと言います。 シンプルであるが故に、その壁は 小手先の技術では超えることができない。 でも、そこから逃げずに、その壁と毎日向き合う。 毎日、毎日、「どうやったらもっと上手くなるか」を考え続ける。 その積み重ねの、気の遠くなるような日々の先に、 小野二郎という人は立っているのでしょう。
引き算の先にあるもの
何回も何回も、無駄なものをそぎ落としていくと、 最後に「核」のようなものが残ります。 そして、この核を日々磨いていくことが大事なのだと思います。 もちろん、この作業は簡単なことではありません。 例えば、どこにでもある「炭素」というものが 大きなエネルギーと、膨大な時間の中で 「ダイヤモンド」へと変わっていきます。 ダイヤモンドはとても固く、削るのは難しい。 でも、ひとたびカットを施し、輝きを放つようになると、 その輝きは決して失われることはありません。 自分の思考も、スキルも、ライフスタイルも… シンプルにシンプルに、削ぎ落としていく。 そして、最後に残ったものを、 大事に大事に、少しづつ磨いていく。 「一流の仕事人になる」ということは、 その先にだけあるような、そんな気がしてなりません。
※この記事は、「Entre Magazine」のバックナンバーから抜粋しています。Entere Magazineの登録はこちらからどうぞ。
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