経営者インタビュー

【後編】会計士 田中靖浩氏が語る、マネジメントが辿る変遷。「PDCA」から「OODA」の時代へ 

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米軍発祥のマネジメント その名は「OODA」

前編に続き、今回も米軍発祥のマネジメント法「OODA」を用いたマネジメントについて紹介する。

>>>【前編はこちらから

 

自分中心の考え方をするPDCAに対し、相手中心の考え方をするOODA。それを実践するうえで何が重要なのか? 後編の今回では、OODAを実行するために必要なことや心構えなど、より本質的な部分へと迫っていく。

お話を伺った方

田中 靖浩 氏
田中靖浩公認会計士事務所所長 公認会計士
東京都立産業技術大学院大学客員教授

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1963年三重県四日市市出身。早稲田大学商学部卒業後、外資系コンサルティング会社を経て現職。中小企業向け経営コンサルティング、経営・会計セミナー講師、執筆、連載を行う一方、落語家・講談師とのコラボイベントも手がける。
難解な会計・経営の理論を笑いを交えて解説する「笑いの取れる異色会計士」として活躍中。
主な著書に「経営がみえる会計」「クイズで学ぶ孫子」「40歳からの名刺を捨てられる生き方」ほか多数。

目次

【前編】
(1) 米軍式マネジメント法「OODA」
(2) テクノロジーの発達がもたらす光と闇
(3) PDCAとOODAの違い

【後編】
(4) PDCA人間はモテない
(5) 部下の失敗をゆるせるか?
(6)「管理する時代」から「信じる時代」へ

(4) PDCA人間はモテない

-なるほど、OODAというのは人間の本質をうまく捉えた手段のように感じますね。
たしかに「いざというとき動けない」人って、仕事に限らず日常生活においても、あまり魅力を感じませんね。

田中- OODAは、ビジネスに限らず、日常生活や人間関係、ひいては人生観にも活用できると考えています。たとえば、PDCAの考え方をしている男性は、恋愛でもモテません(笑)意中の異性を射止める人ほど、思考が柔軟です。多くの男性は、はじめてのデートとなると気合をいれて、待ち合わせ場所周辺を入念に準備して、レストランを予約します。しかし、これは自己中心的な考えで、相手の状況を把握できないまま行動することはあまり好ましくありません。

本当にモテる男性は、待ち合わせ直後の軽い会話の中から、相手がお昼に何を食べたのか、仕事の疲れ具合、何時までに帰りたいのかなどを細かく観察します。ここで重要なのは、あらかじめの計画にこだわりすぎないことです。

(5)部下の失敗を許せるか?

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-では、現代ではPDCAはもう使い物にならないということでしょうか?

田中- 書籍では、OODAをわかりやすく説明するためにPDCAを比較対象にしましたが、必ずしもPDCAがシステムとして不全であるというわけではありません。また、OODAと対極だというわけでもありません。PDCAは社員の能力を踏まえたうえで、適切な課題を設定することができれば、うまく機能させることができます。

しかし、多くの経営者が「P=plan」の段階で、不可能な課題設定をしてしまいがち。実現不可能な経営計画というのは結局、人の管理を強化することにつながり、現場の現状を把握していない経営陣が無理難題な計画をすることで、社員が疲弊していきます。PDCAを効果的に機能させるためには、上司と部下が密にコミュニケーションをとり、適切な課題設定を図る必要があります。計画が達成できたかどうかで、業績を評価する風潮は建設的とは言えません。それが行き過ぎているという自覚をもち、変えていくことが大切だと思います。

―OODAとPDCAを比較した時のプロセスで特に大きく異なる部分はありますか?

田中- PDCA方式で計画をするとき、合意形成を前提に課題を設定していきます。だから自分たちが決めたことに対して、ある一定の責任がともなうため、予測できない変化に対して、課題を変更することが躊躇われます。

それに対しOODAは、個人の判断をもとに動くので、観察して状況を判断し決断します。個人の裁量権が大きいため、ためらいなく変更することができます。もちろん、観察力や判断力というのは個人に差がありますから、はじめから的確な判断を下すことは難しいでしょう。

そこで、上司がその失敗を許せる人であるかが鍵となってきます。OODA的な部下を育てるには、失敗することを悪としない雰囲気を作っていかねばなりません。また、OODA的な戦略に適した業種は、製造業よりサービス業の方でしょう。製造業は品質管理がありますから、PDCAで管理した方がうまくいきます。一方で、コンサルタント、デザイナーなど、顧客を見ながら臨機応変なスタイルが求められる職業に対しては、OODA的な思考が有効です。さらに、OODA的な考えに適した企業の規模は変化に保守的な大企業よりも、一人一人の能力が問われる中小企業に適していると思います。

(6) 「管理する時代」から「信頼する時代」へ

-信頼して、任せることが重要だと。

田中- 軍事やビジネスに限らず、新たなテクノロジーの発達というのは、必ず管理を強化する方向に進みます。管理を強めても大丈夫だという力学が働くのです。しかし、過剰計画・過剰管理・計画過剰は、同時に組織の柔軟性を阻害し、結果として自主性を奪っていくことになります。労働環境が安定していて変化の少ないものであれば、PDCAサイクルでも改善していくことは可能ですが、予測できない変化に対応して行かなければならない場面というのは、多くの職業に共通することです。

19世紀の終わりごろ、「能率をあげろ!」と叫んだフレデリック・テイラーは、「科学的管理法」という方法を編み出し、経営者の低労務費と労働者の高賃金を両立させるため、徹底したマニュアル化を提唱しました。それによって、人々はのんびりと働く自由を失った代わりに毎月の給料をもらい、生活を豊かにしてくれる自動車や電化製品を手に入れていきます。

その「科学管理法」を受け継ぎ、世界初の自動車大量生産を実現させたのがフォード・モーターのヘンリフォードです。そして、この合理主義的な管理法は会計にも取り入られ、コスト削減に励むようになりました。この能率主義は日本に輸入され、未だに会社組織を運営する上での基本的組織として生き続けています。ただ、儲からないとすぐに人をリストラするアメリカ企業と、雇用を守る日本企業とは経営風土が異なることを忘れてはいけません。

現在では当然のように普及している能率主義も、実はまだ100年の歴史なのです。 計画を達成することのみで評価する文化は、日本の文化にあっているとはいえません。時代の流れと文化をしっかり観察し、柔軟に対応する能力が問われています。

いまこそ、本当に日本人に合う「新たな仕組み」を作っていきましょう。そのためにも「人を信じ、人を動かす」ということに力を入れていく必要があります。OODAを実践していくためには、仕事を一緒にしていく人たちとの信頼関係が構築されていることが大前提です。相手を信頼し、管理しすぎないような取り計らいをすることで、自律した組織へと育てていくことができます。軍隊であれ、会社であれ、任せることは容易ではありません。OODAを実践することにより、個人だけでなく、組織も成長することができます。そして、それは「働きがい」を高めることにつながることでしょう。

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